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横浜地方裁判所 平成11年(ワ)917号 判決 2000年5月11日

原告

伏見眞樹

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

大野裕

渡辺博

被告

甲山太郎

乙野某

右両名訴訟代理人弁護士

山口裕三郎

主文

一  被告らは、原告伏見眞樹に対し、各自一五一九万四〇七二円及びこれに対する平成八年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告伏見昌子に対し、各自一六三一万七二一四円及びこれに対する平成八年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

三  被告らは、原告伏見晴日に対し、各自一六五万円及びこれに対する平成八年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、原告伏見咲月に対し、各自一六五万円及びこれに対する平成八年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、原告伏見眞樹及び原告伏見昌子と被告らとの間で生じたものは、これを一〇分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告伏見眞樹及び原告伏見昌子の負担とし、原告伏見晴日及び原告伏見咲月と被告らとの間で生じたものは、これを四分し、その三を被告らの負担とし、その余を原告伏見晴日及び原告伏見咲月の負担とする。

七  この判決は、各原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、原告伏見眞樹に対し、各自五三二〇万〇六六一円及びこれに対する平成八年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告伏見昌子に対し、各自五三二〇万〇六六一円及びこれに対する平成八年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告伏見晴日に対し、各自二二〇万円及びこれに対する平成八年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは、原告伏見咲月に対し、各自二二〇万円及びこれに対する平成八年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告甲山太郎(以下「被告甲山」という。)が運転する原動機付自転車(葉山町<番号略>。以下「被告車」という。)が、原告伏見眞樹(以下「原告眞樹」という。)及び原告伏見昌子(以下「原告昌子」という。)の二女であり、原告伏見晴日(以下「原告晴日」という。)の妹で、原告伏見咲月(以下「原告咲月」という。)の姉である伏見花子(以下「花子」という。)に衝突し、花子が死亡した事故(以下「本件事故」という。)について、原告らが、被告甲山に対し、民法七〇九条に基づき、被告車を保有し、被告車を自己のために運行の用に供していて、被告甲山の使用者である被告乙野某(以下「被告乙野」という。)に対し、自動車損害賠償保障法三条及び民法七一五条一項に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  争いがない事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成八年七月一一日午後四時五八分ころ

(二) 場所 神奈川県三浦郡葉山町一色<番地略>先路上

(三) 加害車両 被告車

右運転者 被告甲山

右保有者 被告乙野

(四) 被害者 花子(昭和六一年一〇月八日生)

(五) 争いがない事故態様

前記日時ころ、前記場所において、被告甲山が運転する被告車が、花子に衝突し、花子は、脳挫傷兼頭蓋内出血などの傷害を負い、神奈川県鎌倉市山崎<番地略>所在の医療法人社団愛心会湘南鎌倉総合病院に搬送されたが、同日午後七時七分死亡した。

2  責任原因

被告乙野は、被告車を保有し、被告車を自己のために運行の用に供していた。また、本件事故は、被告乙野の被用者である被告甲山が被告乙野の事業の執行につき発生させた。

3  争いがない損害

治療費 一八万〇五五〇円

4  相続

原告眞樹及び原告昌子は花子の父母であり、本件事故によって生じた花子の損害賠償請求権を相続した。

5  損害の填補

原告眞樹及び原告昌子は自動車損害賠償責任保険から平成八年一二月一二日二八八九万〇〇五〇円の支払を受けた。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

1  本件事故の態様・被告甲山の過失・過失相殺(以下「事故態様等」という。)

(一) 原告らの主張

(1) 被告甲山は、被告車を運転し、密集する住宅の間を走る狭隘な道路(幅員約2.6メートル。以下「本件町道」という。)を一色橋方面(南方)から県道二七号線方面(北方)に向かい進行するにあたり、本件町道を北に向けて歩行していた花子ほか複数の児童を含む歩行者を前方に認めたにもかかわらず、その動静に対する注視を完全に怠ったまま強引に急加速して進行したため、折から本件町道の東端(被告車の進行方向から見て右端)に向けて被告車を避けようとした花子にノーブレーキの状態で被告車の前部を衝突させて、花子を撥ね飛ばした。

(2) 被告甲山は、本件町道が密集する住宅の間を通る狭隘な道路であり、本件町道前方に花子を含む複数の児童が歩行していたのだから、前方を注視の上最徐行すべき注意義務があったにもかかわらず、前方注視を完全に怠ったまま急加速して進行した過失により本件事故を発生させた。

(3) 本件事故は、被告甲山が徐行していれば、発生しなかったものであり、被告甲山の重大かつ一方的な過失を原因とする。

また、被告甲山は、被告車の直前に花子を認めたものの、衝突回避措置を取ることなく、そのまま被告車の走行を続けた。被告甲山が衝突直前に急ブレーキをかけるなど緊急の衝突回避措置を取ってさえいれば、花子の死亡という重大かつ悲惨な結果は防げたはずである。衝突直前の衝突回避措置を取らなかった被告甲山の責任は重大である。

もともと本件町道の左側を歩いていた花子は、本件事故直前後方から近づいて来る被告車を認識し、被告車から自身の安全を図るために道路の左側から右側に移動を開始したに過ぎない。花子が近づいて来る被告車を認識した際の被告車の速度からすれば、移動は安全なはずだった。ところが、花子の予測に反して被告甲山が被告車の速度を上げて側方を通過しようとしたため本件事故が発生した。

(二) 被告らの主張

本件事故は、被告甲山が、被告車を運転して、歩車道の区別がない幅員約3.6メートルのアスファルト舗装の本件町道を進行していた際前方約22.6メートルの地点に原告昌子、花子ら五人が横一列になって被告車と同一方向に歩行していたのを認め、クラクションを鳴らして被告車の接近を知らせ、時速約一〇キロメートルに減速したところ、花子らが被告車前方約4.6メートルの地点で二組に分かれて、道路の両側に待機したのを見届けたので、そのまま待機の状態で被告車が通り過ぎるまで道路中央には出て来ないだろうと思い、多少速度を加速して道路中央を走り出したところ、道路左側に待機していた花子が急に左方から右方へ駆け出して来たので、避ける間もなく被告車の前輪部が花子の足部分に衝突したというものである。

以上からすると、花子にも四〇パーセントの過失があるものというべきである。

2  原告らの損害

(一) 原告らの主張

(1) 花子の損害

ⅰ 逸失利益

七七八一万五六九七円

花子は、本件事故当時葉山町立一色小学校四年に在学する成績優秀で健康な満九歳の女性だった。

よって、花子の逸失利益は、次のとおり計算すべきである。

a 基礎年収 五〇三万〇九〇〇円(平成一〇年版『賃金センサス』による産業計・企業規模計・学歴計の全労働者平均年収額)

『賃金センサス』によれば、男子労働者と女子労働者の平均賃金額の間には相当な格差がある(全年齢平均賃金では、女子労働者の金額は男子労働者の金額の約七〇パーセントにとどまる)。

しかし、この賃金格差は男女の労働能力の差を正当に反映したものではない。男女雇用機会均等法の施行を一つの契機として総合職に就く女性が増加しているなど女性の社会的進出は近年急速に進みつつあり、現在の賃金格差が将来にわたって解消されないとは到底考えられない。また、『賃金センサス』の女子労働者に関する統計は家事や育児のための労働に多くの女性が従事している現実を全く反映していない。

未就労の女児の逸失利益を算定するにあたり、『賃金センサス』の女性労働者平均賃金額を機械的に適用することは、憲法一四条(法の下の平等)、労働基準法(男女同一賃金の原則)の趣旨にも反する不当なものである。

b 生活費控除 三〇パーセント

c① 本件事故時(花子満九歳)から就労終期(同満六七歳)までの五八年間に対応する新ホフマン係数(中間利息控除の率は年四パーセントが相当である。) 29.6527

② 本件事故時(花子満九歳)から就労始期(同満一八歳)までの九年間に対応する新ホフマン係数(中間利息控除の率は年四パーセントが相当である。) 7.5562

中間利息の控除は、民事法定利率が五パーセントと定められているからといって、同率で行わなければならない論理的必然性はない。中間利息の控除を行うことが果して合理的であるかどうかという点自体議論があるが、仮にそれを肯定するにしても、法律に規定がない以上、裁判所は、日本経済の置かれている状況などの現実をしっかりと踏まえ、何パーセントの利子率を用いて将来の所得を現在の価値に換算するのが妥当かという点について判断することが求められている。

現在、公定歩合は0.5パーセント、一〇〇〇万円以上の大口定期預金の利率は一年もので0.12パーセントである。過去五年の平均を求めても、公定歩合は0.75パーセント、定期預金の金利は0.774パーセントであり、一〇年の長期国債の利回りでさえ2.6188パーセントに過ぎない。これらの数値から見る限り、現在支払われた賠償金を年利五パーセントで運用することは到底不可能であることは明らかである。

日本においてはこのような超低金利水準が続いているのであるが、このような金利水準が将来にわたっても相当期間続くであろうことは広く認められている極めて蓋然性の高い予測である。日本経済が既に成熟した状態に達していることからして、かつてのような高い経済成長率が再び実現する可能性は低く、従って金利水準が年利五パーセントに上昇し、それが継続する可能性もほとんどないといわざるを得ない。このような合理性ある予測は逸失利益の算定において斟酌されなければならない。もし現在のような低金利が七年間続き、その間の平均金利がこの三年間の中間値である0.25パーセントであったとすれば、それ以降三五年間にわたって金利が五パーセントに上昇したとしても、全就労期間の平均金利は3.94パーセントとなるのであるから、年利四パーセントの割合で控除すべきであるとの原告らの主張は事実に即した部分を持つ極めて控え目なものである(なお、逸失利益算定の実務においては、戦後日本において一貫して物価が上昇して来たにもかかわらず、将来にわたる物価上昇の蓋然性が全く考慮されていない不合理さにも注意しなければならない。例えば『経済統計年報』によれば、昭和四〇年の全国就労者世帯の可処分所得(月額)は五万九五五七円であるのに対し、平成九年のそれは四九万七〇三六円と八倍以上に上昇している。また、消費者物価指数は、平成七年を一〇〇とした場合、昭和五三年は68.3である。この統計一つを見ても、逸失利益の算定にあたり、インフレ加算をしない一方で中間利息を年五パーセントで控除することは逸失利益の額を極端な低額に押し止めるものであり、その不合理性は顕著である。)。

中間利息の控除を年五パーセントの割合で行うことに合理性は全く存在しない。

[計算式] 503万0900円×(1−0.3)×(29.6527−7.5562)=7781万5697円(1円未満切り捨て)

ⅱ 慰謝料 三〇〇〇万円

花子は、明るく素直かつ温厚な性格で、家族や友人思いの心優しい子であった。花子の未来は洋々たるものがあった。

被告甲山は、運転手の最も基本的な注意義務である前方注視を完全に怠った上、本件町道は住宅地を走る幅員の極めて狭い道路であり、しかも前方には児童を含む複数の歩行者がいたにもかかわらず、これを無視して強引に急加速して進行した結果、本件事故を惹き起した。

高速度で進行して来た被告車に激突された花子の受けた恐怖と苦痛、何の落ち度がないにもかかわらず、愛する両親や姉・妹らを残しわずか九歳で生命を奪われた花子の無念の思いははかり知れない。

本件事故によって死亡した花子に対する慰謝料は三〇〇〇万円が相当である。

ⅲ 弁護士費用 一〇〇〇万円

ⅳ 前記一3の争いがない損害を含めた損害の合計額

一億一七九九万六二四七円

(2) 原告眞樹及び原告昌子の損害

ⅰ 慰謝料

各五〇〇万円(合計一〇〇〇万円)

原告眞樹及び原告昌子は、花子の父母であり、固有の慰謝料請求権者である。

右原告両名は、大切に慈しみ育てて来た最愛の娘である花子を本件事故により突然に失ったのであり、花子に対し強い愛情と期待をかけてきた右原告両名の喪失感と絶望感は筆舌に尽くしがたい。

とりわけ原告昌子は、最愛の娘が無残にも被告車によって撥ね飛ばされ苦しむ姿を間近で目撃したのであり、この悲惨な記憶は一生消えることはない。

加えて、本件事故後の被告らの不誠実極まりない対応を考慮すれば、花子の死亡により右原告両名が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては各五〇〇万円が相当である。

ⅱ 葬儀費用

各一五〇万円(合計三〇〇万円)

ⅲ 休業損害

各一五万円(合計三〇万円)

原告眞樹及び原告昌子は伝統工芸である漆器の製作を共同で営んでいる。

右原告両名は、愛する娘を突然に失ったことによる精神的ショックのため、漆器の製作に著しい障害をきたし、本件事故後一か月(三〇日間)は全く製作活動ができなかった。

右原告両名の一日当たりの収入は五〇〇〇円を下ることはない。

ⅳ 弁護士費用

各六〇万円(合計一二〇万円)

ⅴ 損害の合計額

各七二五万円(合計一四五〇万円)

(3) 原告晴日及び原告咲月の損害

ⅰ 慰謝料

各二〇〇万円(合計四〇〇万円)

原告晴日は花子の実姉、原告咲月は花子の実妹であり、固有の慰謝料請求権者というべきである。

本件事故により突然敬愛する妹(姉)を失った右原告両名の失意と悲しみは大きく、発育途上にある右原告両名に与えた影響は甚大である。

右原告両名のこの精神的苦痛に対する慰謝料は各二〇〇万円が相当である。

ⅱ 弁護士費用

各二〇万円(合計四〇万円)

ⅲ 損害の合計額

各二二〇万円(合計四四〇万円)

(4) 前記一4のとおり、原告眞樹及び原告昌子は、本件事故によって生じた花子の損害賠償請求権を相続した。右原告両名が取得した損害賠償請求権はそれぞれ前記(1)の二分の一である五八九九万八一二三円であるところ、右原告両名固有の損害賠償請求権(各七二五万円)を合計すると、各六六二四万八一二三円となり、これに対する本件事故の当日から前記一5のとおり、自動車損害賠償責任保険の保険金を受領した日までの間(一五四日間)の遅延損害金は一三九万七五六三円である。

よって、損害の填補として控除すべき額は各一三〇四万七四六二円となる。

(二) 被告らの主張

(1) 逸失利益

二三五五万一〇五七円

花子は本件事故により死亡したとき満九歳の女性であった。

ⅰ 基礎年収 三三五万一五〇〇円

花子の死亡時の平成八年における賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計の女子労働者学歴計の全年齢平均の賃金額は右の金額である。

ⅱ 生活費控除率 四〇パーセント

ⅲ 中間利息控除

年五パーセントの割合で控除するライプニッツ式が相当である。

ⅳ 本件事故におけるライプニッツ係数 11.7117

就労の終期である六七歳から死亡時の九歳を差し引いた五八年に対応するライプニッツ係数18.8195から、就労の始期である一八歳から右の九歳を差し引いた九年に対応するライプニッツ係数7.1078を差し引いた係数である。

ⅴ 算式

以上ⅰからⅳの数値を基に計算した花子の逸失利益は二三五五万一〇五七円になる。

335万1500円×(1−0.4)×11.7117=2355万1057円

(2) 慰謝料 二〇〇〇万円

右慰謝料額は、被害者本人並びに民法七一一条所定の者及びそれに準じる者の慰謝料の総額であり、右金額が相当である。

(3) 被害者の両親である原告眞樹及び原告昌子の休業損害については、前記(2)の民法七一一条所定の者の慰謝料の認定で足りる。

第三  争点に対する判断

一  争点1(事故態様等)について

1  甲第一ないし六、八ないし一一号証、第一二号証の二、第一五、二〇号証、乙第一号証、原告伏見眞樹、原告伏見昌子、被告甲山太郎(以下の認定に反する部分を除く。)本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件町道は、一色橋方面から県道二七号線方面へ向かって南北に走っており、両側は人家が建ち並び、本件町道周辺は住宅が密集する住宅地となっている。本件町道は、直線平坦な道路で、道路の見通しは良好である。また、本件町道は通学路になっている。

(二) 本件町道は、歩車道の区別がなく、有蓋側溝部(幅は0.5メートルである。)を入れて全幅3.6メートルであり、路側帯などは設けられていない。本件町道は、アスファルト舗装で、凹凸のない平坦な道路であり、路面は乾燥し、土砂等による汚れは認められない。

(三) 本件事故直後である平成八年七月一一日午後五時一五分から同日午後六時一五分までの間に実施された実況見分の際本件町道を通過した車両は、自動車五台、自転車二台だった。

(四) 小学四年生の花子は、本件事故の際妹である原告咲月を保育園に迎えに行くため、原告昌子及び花子の友人の児童ら五人で、本件町道を概ね横一列で歩いていた。このとき花子は道路の一番左端を歩いており、原告昌子は犬を連れて一番右端を歩いていた。

(五) 原告昌子は、本件町道が交通量が少なく、割合安全だったので、普段から本件道路を歩いていた。

(六) 被告甲山は、本件事故を起こした日には午前一時一五分ころ新聞専売所に出勤し、午前二時ころ新聞配達のため被告車を運転して新聞専売所を出た。被告甲山は、午前五時三〇分ころ朝刊の配達を全部終え、新聞専売所に戻ってから自宅に帰った。午前七時ころから午前一〇時三〇分まで自宅で仮眠をとり、被告甲山は午前一一時三〇分ころ夕刊を配達するために被告車を運転して、新聞専売所に戻った。午後二時四〇分ころ新聞専売所を出発し、午後四時五五分ころ夕刊の配達を終え、新聞専売所に戻るため被告甲山は被告車を運転して一色橋方面から県道二七号線方面に向けて時速約三〇キロメートルで進行していた。当時本件町道には駐車している車両はなく、対向車もなかった。なお、被告甲山は本件町道を新聞配達等でいつも通行しており、道路の状況はよく知っていた。

(七) 被告甲山は、被告車と同一の方向に横一列で歩いており、被告車に背中を向けている花子や原告昌子ら歩行者を発見した。このときの歩行者の真ん中の者と被告甲山が右歩行者を発見した地点との距離は、22.6メートルだった。

(八) 被告甲山は、前記(七)の歩行者を発見した地点から14.7メートル進行した地点で、危険を感じ、軽くブレーキを踏んで、時速二〇キロメートルくらいに減速し、クラクションを二回鳴らした。このときの歩行者の真ん中の者と被告甲山の距離は9.7メートルだった。

(九) 花子らは、被告車の進行して来ることに音で気がつき、原告昌子は花子らにバイクに注意するように声をかけた。花子ら三名の児童は本件町道の左端に、原告昌子及び一名の児童が本件町道の右端に避けた。

(一〇) 被告甲山は、右(八)の地点から6.1メートル進行した地点で、前記(九)のとおり、花子ら歩行者が左右に避けたため、花子らが被告車の進路に出て来ることはないと思い込み、加速して花子ら歩行者の間を通過しようと考え、それまで時速一〇キロメートルくらいにまで減速していたのを、アクセルをしぼり、加速した。なお、このときの右側の歩行者と被告甲山との距離は4.3メートルであり、左側にいた花子と被告甲山との距離は4.6メートルだった。

(一一) 被告車が加速したとき、被告車の進行方向左側にいた花子が走って本件町道を斜めに横断を開始した。被告甲山は、ブレーキをかけたり、ハンドルを切ったりする間もなく、被告車が加速した地点から4.6メートル進行した地点で、一旦被告車を避けた地点から1.8メートル進んだ花子の右足に被告車の前輪部を衝突させた。

(一二) 被告車は衝突地点から7.5メートル進んで転倒して停止し、花子は衝突地点から、被告車進路から見て前方やや右側の2.4メートルの地点に転倒した。

(一三) 本件町道には、衝突地点から被告車が転倒停止した地点にかけて、長さ1.9メートルの一条または二条の擦過痕があった。

(一四) 被告車の幅は六六センチメートルであり、被告車の運転席から視野を妨げるものはなく、被告車のハンドル、ブレーキ、クラクション等の機能点検が前記(三)の実況見分の際実施されたが、故障は認められなかった。被告車の前輪タイヤの左側部に擦過痕が認められたが、被告甲山は、前記(三)の実況見分の際警察官に対し、被告車が衝突したときに付いたものと思うと説明した。他に、被告車の左ステップ先端部、補助スタンド先端部及び被告車の荷篭左側角部に擦過痕が認められた。

(一五) 被告甲山は、本件事故について、業務上過失致死罪で起訴され、平成九年一月八日罰金三〇万円に処された。右刑事事件の略式命令において認定された被告甲山の過失は、被告車を運転して、本件事故が発生した場所の歩車道の区別のない幅員約3.6メートルの狭隘な住宅街の道路を時速約三〇キロメートルで進行するに当たり、被告車前方約22.6メートルの地点に原告昌子が次女の花子及び花子の同級生三名の子供達を連れて横一列となって被告車と同一方向に歩行していたのを認め、警音器を吹鳴して被告車の接近を知らせ、時速約一〇キロメートルに減速したところ、被告車前方約4.6メートルの地点で原告昌子らが三名と二名の二組に分かれて道路の両側に待機したが、原告昌子らは二組に分かれて待機した直後であった上、花子ら四名は幼少であったから、二組に分かれた子供達が他の組の者達と一緒になろうとするなどの行動に出ることを予想し、最徐行の上、子供達の動静を注視して安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、子供達が道路の両側に待機したままでいるものと軽信し、その動静注視不十分のまま漫然加速しながら子供達の直近を進行しようとした過失により、花子が道路左側に待機した直後に左方から右方へ駆け出したのを認めたが、急制動の間もなく被告車前部を花子に衝突させて路上に転倒させたと認定されている。

(一六) 被告甲山は、本件事故で免許停止三〇日の行政処分を受けたが、講習を受けて二八日短縮された。

以上の認定に反する被告甲山の本人尋問における供述は、後記2の理由に、より信用できない。

2  被告甲山は、平成一一年一一月二二日午前一一時の第五回口頭弁論期日に実施された本人尋問において、花子を含む歩行者らの間を通り抜けようとした際被告車を加速したことはない、惰性で花子らの脇を通過しようとしたところ、花子がほぼ道路に直角に急に飛び出してきた、突然横から飛び出されて、咄嗟にブレーキをかけた、ブレーキはすぐに効いたが、結果的には花子への衝突は避けることができなかった、路面にはブレーキ痕がついていた、被告車は転倒したわけではない、タイヤがロックしてバランスを崩したので、よろけただけである、花子と衝突してすぐに被告車は停止した記憶であると供述した。

しかし、右供述は、前記1(三)の実況見分の結果を記載した実況見分調書(甲第三号証)から認定できる、ブレーキ痕が本件事故現場に存在していず、本件事故現場に1.9メートルにわたる擦過痕が存在していること、衝突地点から7.5メートル進行して被告車は転倒停止したこと及び花子は衝突地点から2.4メートルの地点に転倒したことと矛盾するものである。また、右供述は、前記1(三)の本件事故直後の平成八年七月一一日午後五時一五分から午後六時一五分に実施された実況見分で被告甲山が自ら立ち会い、警察官に指示説明したことと異なる供述であり、また、本件事故から六か月以内である平成八年一二月二四日に作成された警察官に対する供述調書(甲第九号証)及び本件事故から一五日後である同年七月二六日に作成された警察官に対する供述調書(甲第五号証)の記載内容にも相反するものであり、被告甲山はこのように異なることにつき合理的な説明ができていない。以上からすると、被告甲山の前記本人尋問における供述は、自らの責任を軽減する意図をもってなされたものと認められ、信用することはできない。

被告甲山の本人尋問における前記1の認定に反するその余の供述も前記警察官に対する供述調書や前記警察官に対する供述調書と矛盾するため信用できない。

3(一)  前記1において認定した事実によれば、本件事故の態様は、被告甲山が、本件事故が発生した日時ころ時速約三〇キロメートルで被告車を運転して、本件事故の現場に差しかかったところ、前方約22.6メートルの地点に被告車と同一の方向に横一列になって歩いている花子ら歩行者五名を発見し、一旦は時速一〇キロメートルくらいにまで減速したが、右花子ら歩行者が道路の進行方向の左と右に分かれて、被告車を避けたことから、右花子ら歩行者が被告車の進路に出て来ることはないものと考え、再び加速したため、ブレーキをかけたり、ハンドルを切ったりする間もなく、折から本件事故現場の道路を左から右に斜めに走って横断した花子の右足に被告車の前輪部が衝突し、花子を路上に転倒させたというものであることが認められる。

(二)  前記1において認定した事実によれば、被告甲山は、本件町道は有蓋側溝部を含めても幅員3.6メートルと狭隘であり、通学路となっている住宅街を通っている道路であるから、被告車を避けるため一旦道路の左右に分かれたとしても、歩行者である花子らが児童であるので、その横を通過する際には、徐行していつでも停止して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、前記のように道路の左右に分かれたことから、被告車の進路に花子が出てくることはないものと軽信し、被告車を加速して進行させ、前記(一)のように被告車の前輪部を花子の右足に衝突させた過失があるものと認められる。

(三)  前記1において認定した事実によれば、本件町道の両側は人家が建ち並び、本件町道の周囲は住宅地であること、本件町道は有蓋側溝の部分を含めても幅員3.6メートルと狭隘であること、本件町道は、通学路であって、花子のような児童が通行する道路であること、本件町道自体は、交通量が少なく、歩行者が通行するには比較的安全な道路であったこと、被告甲山は、本件町道をいつも通行しており、道路の状況はよく知っていたこと、被害者である花子は小学校四年生の児童であること、以上のことからすると、本件町道を花子が横断することは被告車を運転していた被告甲山が予測可能な事柄であること、被告甲山は、本件町道を花子が、横断することはないと軽信し、左右に花子らが分かれた後に被告車を加速していること、花子が本件町道を横断を開始したときの花子と被告甲山の距離は4.6メートルであり、被告車が徐行していれば、本件町道の幅員から考えて、横断を完了することができた蓋然性が高いものと推認できること及び原告昌子は、被告車の接近に気がつき、注意するように声をかけており、花子が危険な歩き方をしているのを放置している等落ち度がなかったことが認められ、これらの事実によれば、花子ら被害者側に本件事故の発生や損害の拡大に過失があったとは認められず、原告らに過失相殺をするのが相当とするような事由があるものとは認められない。

二  争点2(原告らの損害)について

1  花子の損害

(一) 逸失利益

二七四七万二三三円

(1) 甲第二、一三号証によれば、花子は、本件事故当時小学校四年に在学する満九歳の女性だったことが認められる。

(2)  花子の逸失利益の算定に当たっての基礎年収は、賃金センサス平成八年第一巻第一表女子労働者産業計・学歴計・全年齢平均三三五万一五〇〇円と認めるのが相当である。

この点について、原告らは平成一〇年版『賃金センサス』による産業計・企業規模計・学歴計の全労働者平均年収額五〇三万〇九〇〇円を基礎年収とすべきであると主張している。しかし、被害者が死亡した場合の逸失利益は、原則として事故前の収入を基礎として算出するものであり、収入がなかった場合には賃金センサスにより死亡当時被害者が得る蓋然性がある収入を基に算出するものであるところ、花子が死亡した平成八年当時男女間に労働市場において賃金格差があったことは事実である。また、将来何時どのように男女間の賃金格差がなくなるかは予想不可能であるというべきである。以上からすると、男女の賃金に格差が将来にわたり存在することを肯認するものではないが、花子の逸失利益の算定にあたっては、賃金センサス平成八年第一巻第一表女子労働者産業計・学歴計・全年齢平均三三五万一五〇〇円を採用するのが相当であって、原告らの主張は理由がない。

(3) 生活費控除率は、花子が女性であることに鑑みると三〇パーセントとするのが相当である。

(4)  中間利息の控除は年五パーセントのライプニッツ係数によるのが相当である。

この点について、原告らは、中間利息控除の率は年四パーセントが相当であると主張する。確かに、原告らの主張するとおり、現在の金利は低金利である。しかし、中間利息の控除率を認定するにあたり、将来の経済変動まで見通してどのような割合で中間利息を控除するのが適正であるかを法的に評価して認定するのは困難である。その上、中間利息の控除率と遅延損害金の利率は、性質が違うものではあるが、被害者は、事故が発生した日から現実的に損害の賠償を受ける日まで、損害について民法所定の利率である年五パーセントの利回りによる運用をしたのと同様な経済的利益を実質的に取得することとの公平を考える必要がある。以上からすると、実務上長期にわたり行われてきた中間利息の控除率を年五パーセントの割合でするという運用を変更することが相当であるとは認められず、原告らの主張は、理由がない。

(5) 以上から、花子の逸失利益を算定すると、以下のとおり、二七一七万六九九九円になる。

就労可能年数六七歳から花子が死亡した年齢である九歳までの五八年間に対応するライプニッツ係数

18.8195

就労開始年齢一八歳から花子が死亡した年齢である九歳までの九年間に対応するライプニッツ係数

7.1078

335万1500円×(1−0.3)×(18.8195−7.1078)=2747万6233円(1円未満切り捨て)

(二) 慰謝料

甲第六、一五、二二号証、原告伏見昌子本人尋問の結果によれば、被告甲山は、被告車と衝突し、路上に転倒した花子に対し、「なんだよう」と大声で怒鳴ったこと及び被告甲山は、本件事故後被害者である花子の救護にあたることなく、煙草を喫っていたことが認められる。

これらの事実に、前記一1の事実により認められる、花子が、本件衝突により受けた衝撃は大きなものであったことや前記(一)の花子は死亡当時九歳で小学校四年生であったこと等本件事故についての一切の事情を考慮すると、花子の慰謝料は一八〇〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 四五〇万円

本件事故の難易等一切の事情を勘案すると、弁護士費用は、花子の損害については四五〇万円が本件事故と因果関係があるものと認めるのが相当である。

(四) 前記一3の争いがない損害一八万〇五五〇円を含めた花子の損害の合計額は五〇一五万六七八三円になる。

2  原告眞樹及び原告昌子の損害

(一) 慰謝料

原告眞樹について三〇〇万円

原告昌子について四〇〇万円

(合計七〇〇万円)

甲第四ないし六、一三、一五号証、原告伏見昌子、被告甲山太郎(以下の認定に反する部分を除く。)本人尋問の結果によれば、原告昌子は、本件事故の際花子と一緒に本件町道を歩いており、目の前で本件事故を目撃し、被告甲山が、倒れた花子に対し、怒鳴り声をあげるのを聞いたこと、原告昌子は本件事故後救急車で病院に搬送される花子に付き添い、花子が苦しむ姿を目のあたりにしていること、原告昌子は、花子の死亡を防げなかったことを悔やみ、自分を責めて、本件事故後悲嘆にくれる日々を過ごしていること、被告甲山は、遺族である原告眞樹及び原告昌子に対し、心から謝罪をしていないこと、被告甲山は、本件事故による損害の賠償について、保険会社任せにし、どのように示談交渉が進展しているか問い合わせることなく、無責任な態度をとっていること及び花子は、原告眞樹及び原告昌子と苦楽を共にし、右原告らの精神的な支えとなっていたことが認められ(以上の認定に反する被告甲山の本人尋問における供述は、関係各証拠に照らし、信用できない。)、これに前記一の2のとおり、被告甲山は、本人尋問において、自己の責任を軽減するための不合理な供述をしたこと(加害者が、当事者として自己の権利を守るために正当な主張をし、それに沿う供述をすることは慰謝料の算定に当たって考慮すべきではないが、実況見分調書の記載等の証拠と矛盾し、不合理な弁解に終始したときは、被害者の遺族は右供述により、さらに精神的な苦痛を体験することになるから、慰謝料の増額事由となるものと解するのが相当である。)等本件事故についての一切の事情を総合すると、慰謝料は、原告昌子については四〇〇万円、原告眞樹については三〇〇万円と認めるのが相当である。

(二) 葬儀費用

各六〇万円(合計一二〇万円)

右金額が本件事故と相当因果関係にある損害と認められる。

(三) 休業損害 〇円

これを認めるに足りる証拠はない。

(四) 弁護士費用

原告眞樹について三五万円

原告昌子について四五万円

(合計八〇万円)

本件事故の難易等一切の事情を勘案すると、弁護士費用は、原告眞樹の損害については三五万円、原告昌子の損害については四五万円が本件事故と因果関係があるものと認めるのが相当である。

(五) 損害の合計額

原告眞樹の損害の合計額は三九五万円、原告昌子の損害の合計額は五〇五万円にそれぞれなる。

3  原告晴日及び原告咲月の損害

(一) 慰謝料

各一五〇万円(合計三〇〇万円)

甲第六、七、一三、一四、一六号証によれば、原告晴日は花子の姉であり、原告咲月は花子の妹であること、原告咲月作成の陳述書(甲第一四号証)には、「小学校に入ってから、お兄ちゃんやお姉ちゃんといっしょに通っているお友だちがたくさんいます。おもいにもつをお兄ちゃんやお姉ちゃんが持ってくれます。私はそれを見て「いいなあ、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいる人」はと思いました。私となかのよい友だちは、お兄ちゃんやお姉ちゃんが花ちゃんと同じクラスだった人がいて、しゅうがくりょこうや、そつぎょう式や、入学式のことでお兄ちゃんやお姉ちゃんの話ができます。「おみやげに何をもらった」とか、「おいわいに外でごはん食べたんだよ」と楽しそうに話すのを聞いていると「ああ、花ちゃんがいてくれたらよかったのに」と、とてもさみしい気持ちになります。」「私は花ちゃんがいなくなってとても悲しいです。晴日お姉ちゃんは勉強でいそがしいし、お父さんは仕事とさいばんでいそがしそうにはたらいています。家にいるときは「仕事をしなければ」といつも仕事場にいます。お母さんは花ちゃんのことを考えているんだと思うけれど、悲しい顔をしています。泣いていることもあります。それを見ると私もさみしくて、どうしたらいいかわからなくなります。」「お父さんとお母さんは花ちゃんのじこのことで、でかけて家にいないことが多いです。学校から帰ってもお母さんやお父さんがいない日があります。学校が休みの土曜日や日曜日でもいない日があります。そういうときはお姉ちゃんと二人でるすばんをしています。」「花ちゃんがいないから私は晴日お姉ちゃんと遊ぼうと思っても、晴日お姉ちゃんはもう大きくて、お人形さんごっこも本を読むこともつみ木で遊ぶこともいっしょにやってくれません。」「お姉ちゃんと二人だけだと私はさみしいです。お父さんとお母さんがいないときは晴日お姉ちゃんと二人でごはんを食べます。花ちゃんのじこまで、ずうっと五人で楽しくおしゃべりをしながら食べていたのに、たった二人はとてもいやです。」「花ちゃんのことはいつもは思い出しません。思い出すと悲しくなってくるからです。」と記載されていること及び原告晴日作成の陳述書(甲第一六号証)には、「事故のあった日から、私たち家族の「音のもと」のように、賑やかだった花子を失ってしまったことによって、家族の間には、まだ幼い末の妹の声だけが響くだけとなりました。」「父は悲しみを押し殺して、家族みんなを支えてくれました。でも、そうして起きている間がんばっているせいか、花子を思ってぼろぼろに泣いている夢を見るということを母から聞きました。母は、事故現場に居合わせてしまったことによるショックが大きいようで、子供の前では泣かないようにしていたようですが、それでも情緒不安定で、たびたび急に泣き崩れてしまうことがありました。母は、「親なのに助けてやれなかった」と今も自分を責め続けています。花子の死というショックもさることながら、両親のこうした悲しむ姿は今までなかったこともあって、私たち、特に末の妹には大きなショックとなりました。」「私には、花子との思い出がたくさんあります。でも今は、その一つ一つを思い出すことが辛くて、怖くてできません。きっと、思い出すと花子がいなくなってしまったことを実感してしまうからだと思います。本当は、私はまだ、花子が死んでしまったことを、認めたくないのかもしれません。」と記載されていることが認められ、これらの事実及び前記一の事故態様等本件に顕れた一切の事情を斟酌すると、原告晴日及び原告咲月が本件事故により被った精神的苦痛に対する慰謝料は各一五〇万円であると認めるのが相当である。

(二) 弁護士費用

各一五万円(合計三〇万円)

本件事故の難易等一切の事情を勘案すると、弁護士費用は、原告晴日及び原告咲月の損害については一五万円が本件事故と因果関係があるものと認めるのが相当である。

(三) 損害の合計額

各一六五万円(合計三三〇万円)

原告晴日及び原告咲月の損害の合計額は一六五万円にそれぞれなる。

4  前記第二の一4のとおり、原告眞樹及び原告昌子は、本件事故によって生じた花子の損害賠償請求権を相続した。右原告両名が取得した損害賠償請求権の額はそれぞれ前記1(四)の二分の一である二五〇七万八三九一円であるところ、これに右原告両名固有の損害賠償請求権(原告眞樹については三九五万円、原告昌子については五〇五万円)を合計すると、原告眞樹の損害賠償請求権は二九〇二万八三九一円に、原告昌子の損害賠償請求権は三〇一二万八三九一円になる。

ところで、これらに対する本件事故の当日から前記第二の一5のとおり、自動車損害賠償責任保険の保険金を受領した日までの間(一五四日間)の遅延損害金を計算すると、原告眞樹は六一万〇七〇六円、原告昌子は六三万三八四八円になる。

よって、前記保険金について損害の填補として控除すべき額は、原告眞樹は一三八三万四三一九円、原告昌子は一三八一万一一七七円になる。

これを前記損害の花子の相続分を含めた損害額から損益相殺により控除すると、以下のとおり、原告眞樹の認容額は一五一九万四〇七二円に、原告昌子の認容額は一六三一万七二一四円にそれぞれなる。

(原告眞樹)

二九〇二万八三九一円−一三八三万四三九一円=一五一九万四〇七二円

(原告昌子)

三〇一二万八三九一円−一三八一万一一七七円=一六三一万七二一四円

三  結論

以上のとおりであるから、原告眞樹の請求は、被告らに対し、各自一五一九万四〇七二円及びこれに対する本件事故以後の日である平成八年一二月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告昌子の請求は、被告らに対し、各自一六三一万七二一四円及びこれに対する本件事故以後の日である同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告晴日の請求は、被告らに対し、各自一六五万円及びこれに対する本件事故の日である同年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告咲月の請求は、被告らに対し、各自一六五万円及びこれに対する本件事故の日である同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、原告らのその余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言(原告勝訴部分に限る。)につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・梶智紀)

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